- AIは環境への負荷、社会的結束、技術進歩に大きな影響を与える可能性があります
- AIは多くの環境課題に関連する一方、効率性やイノベーション、サステナビリティに関するソリューションの加速といった、革新的な利益をもたらす可能性も秘めています
- 投資家はAIがサステナビリティにもたらす影響を総合的に評価し、その結果をポートフォリオのリスクや投資機会の評価、エンゲージメントの実践に組み込む必要があります
人工知能(AI)が社会や環境にとって総合的にプラスの影響をもたらすために、投資家は貢献することができると思われます。投資家がどのように資本を配分し、どのように企業や政策立案者とエンゲージメントを実践するかによって、AIの最終的な影響に重要な役割を果たす可能性があるということです。
AIの持続可能性(サステナビリティ)をめぐる議論において、楽観派は生産性の向上、科学の躍進、資源配分の改善をもたらすと指摘しています。これに対して懐疑派はエネルギー使用量の増加による環境リスク、社会的結束の弱体化、雇用への悪影響、権力の集中といった弊害を強調しています。
この議論はサステナビリティを重視する投資家にとって、AIが制度を根本から変えうる力であり、新たなサステナビリティ・リスクを生み出し、新たな投資機会を解き放ち、経済全体において資産を再評価しうるものであると明らかにしています。
長期的な視点を持つ投資家にとっての問題は、AIが重要かどうかではなく、そのサステナビリティへの影響がポートフォリオのリスク、リターン、実体経済への影響とどのように相互作用するかになります。
AIが生み出すサステナビリティ・リスク
炭素およびエネルギーシステムへの影響
AIに関連して最も差し迫ったサステナビリティ・リスクは、カーボン・フットプリント(炭素排出)の急増です。大規模なAIモデルや関連するデータセンターの運用は、すでに大量の電力を消費しており、米国では電力使用量が2024年の水準が2028年までに2倍から3倍になると予想されています(米エネルギー省)。
ハイパースケーラーと呼ばれる大規模事業者は再生可能エネルギーの調達を増やしているものの、AIによって増加したワークロードの影響は、特に電力網に制約のある地域において、化石燃料ベースの発電によって満たされているケースが多くなっています。
こうした状況がサステナビリティを重視する投資家にとってもたらすリスクは複数層にわたります:
- AIによる需要に対応するために十分な速さで脱炭素化できない電力会社と、電力市場における移行リスク
- テクノロジー企業による炭素排出量が、削減戦略を実施するよりも早く増加することによる風評リスクと規制リスク
- AIによる電力需要が排出量の増加を促進し、関連する炭素効率向上で相殺されない場合のシステム全体へのリスク
こうしたリスクに最もさらされている領域として、公益企業やAI用データインフラを製造するテクノロジー企業などが挙げられます。
水ストレスと地域の環境外部性
データセンターは冷却のために大量の水を必要としていますが、多くの場合、すでに水不足に直面している地域にあります。AIインフラが乾燥地帯や干ばつに見舞われやすい地域に拡大するにつれ、テクノロジー企業、農業、地域社会の間で水の争奪戦が潜在的な火種となり、以下のような問題を引き起こす可能性があります:
- 水不足によるデータセンターの操業中断という物理的リスク
- データセンターの水利用が水不足につながり、事業者が「社会的ライセンス」を失うリスク
- 自治体が水使用制限や価格改革を課すことによる規制リスク
データセンター事業者やクラウドサービスプロバイダー、インフラ整備事業者への投資家は今や、これまで鉱業や農業のみに向けていたのと同水準の重要度で、水リスクを評価しなければなりません。(水リスクに関しては、以下の英文記事をご参照「Water :The hidden constraint shaping the digital economy」)。
社会的結束と労働の混乱
AIの社会的リスクはより拡散されているものの、社会をより不安定化させる潜在力も持っています。認知的あるいは創造的な業務の自動化は、これまでの産業転換とは異なる形でホワイトカラーの雇用を脅かします。
生産性の向上による恩恵が、主に資本所有者や高度な技術を持つ労働者だけにもたらされるようなケースでは、AIは不平等を悪化させ、社会的結束を損なう可能性があります。
投資の観点では、以下の理由で重要となります。
- 信頼が弱まり、不平等が拡大している社会では、政治的不安定性と政策リスクが高い傾向にあるため
- AIを積極的に導入する企業は労働者、消費者、または規制当局からの反発に直面する可能性があるため
- 顧客サービス、バックオフィス業務、特定の専門サービスなどのセクター全体で、利益率の圧迫と労働の混乱が同時に起こる可能性があるため
こうしたリスクは、消費者向け企業、金融サービス、メディアにとって特に顕著だとみられます。
AIが可能にするサステナビリティの投資機会
こうしたリスクは現実的なものではありますが、AIのネガティブな影響だけに注目すると、サステナビリティの面での成果を加速させる変革の潜在性を見逃してしまいかねません。
効率性の向上
AIはエネルギー、水、材料システムの効率を大幅に改善する可能があります。スマートグリッド、予知保全、需要予測、プロセスの最適化はすべて、廃棄物を削減し、排出原単位を低下させうるものです。
産業界において、AIによる最適化はエネルギー使用量と投入コストを同時に削減し、サステナビリティと競争力の両方を強化する可能性を秘めています。
AIの恩恵を受けることが見込まれるセクターの例として、以下が挙げられます:
- 分散型再生可能エネルギーの管理にAIを採用する電力会社および送電網事業者
- 重工業の効率向上を可能にする産業オートメーション企業
- AIを使用してルート決定や車両稼働率を最適化する物流・輸送会社
これらの利益は多くの場合、漸増的ではありますが複合的なものでもあるため、長期的な価値創造の観点から非常に魅力的と思われます。
技術開発と導入の加速
AIがサステナビリティにもたらす最も根本的な投資機会のひとつは、発明を加速させることにあります。機械学習はすでに、材料科学、バッテリー化学、炭素捕捉、医薬品開発等に応用されています。
実現可能な技術を特定するのに必要な時間とコストを削減することで、AIはこれまで数十年を要していたイノベーションサイクルを圧縮することが可能です。
これにより、以下の分野で投資機会が生まれると見込まれます:
- クリーンエネルギー技術開発企業(特に蓄電、パワーエレクトロニクス、先端材料)
- AIとハードウェア導入を組み合わせた気候ソリューション・プラットフォーム
- 公衆衛生とレジリエンスの課題に取り組む製薬・ライフサイエンス企業
実現リスクは依然として高い水準にあるものの、大手テクノロジー企業はAI能力とサステナビリティに関連するアプリケーションの中心に位置付けられます。
ソリューションをより迅速に展開
AIは実績のあるソリューションの迅速な展開を可能にします。最適化モデルや設計改善が開発されれば、限界費用はほぼゼロで世界中に再現することが可能です。こうした特性は、発明そのものよりも普及スピードが重要であることが多いサステナビリティの分野において、特に威力を発揮します。
こうした観点から、以下の特性をそなえたビジネスモデルが投資家にとって優位となることが見込まれます:
- 研究開発費は高いが、導入の限界費用は低い
- エコシステム導入を可能にするプラットフォーム特性
- AI導入と規制・政策目標との強い整合性
再生可能エネルギー・ソフトウェアプロバイダー、建築効率化プラットフォーム、気候リスク分析企業などは、こうしたダイナミズムを体現するセクターと考えられます。
AIとサステナビリティを両立させる
サステナビリティを重視する投資家にとって、AIはその力を増幅するものと理解すべきだと思われます。AIはその展開とガバナンスのやり方次第では、脱炭素化か資源ひっ迫か、包摂か不平等か、といったリスクを追い風に変えることができるでしょう。
技術そのものは本質的には持続可能でも持続不可能でもなく、その総合的な影響は市場、政策、資本配分の相互作用によってプラスにもマイナスにもなります。
これが投資家に意味することは明らかです。AIは成長テーマとしてだけでなく、サステナビリティの移行に向けた変数として評価されるべきであり、ポートフォリオの構築、エンゲージメントの優先順位、リスク評価の枠組みはそれに応じて進化すべきと考えます。
AIのサステナビリティに関するリスクと投資機会を首尾一貫した形で統合している企業は、長期的な価値創造の次の段階を乗り越えるのに有利な立場にいると言えるでしょう。