2025年は債券にとって好調な年になると広く予想されていました。米国経済が底を打ったと思われる一方でインフレは抑制されつつあり、まだまだ米金利には低下余地があるように見えました。やや単純すぎるかもしれませんが、高い利回りと金利低下による値上がりという組み合わせによって、投資家は魅力的なトータルリターンが期待できるという見通しを持っていたはずです。しかし、2025年は決してそのような単純なものにはならないだろうと、当社のグローバル債券CIOを務めるOlivier De Larouziereは解説しています。
不確実な1年となることは残念ながら確実
米国経済は市場予想よりも弱い一方、インフレ懸念が高まり、経済政策をめぐる不確実性がボラティリティを高めています。米連邦準備制度理事会(FRB)が2025年に利下げに踏み切るかどうか、またどの程度の利下げ幅になるかは、依然として不透明です。ユーロ圏では緩やかな成長が見込まれており、欧州中央銀行(ECB)は政策金利を2%程度まで引き下げると予想されています。
当社の見解も概ね市場予想と一致しています。マクロ経済の予測は資産運用会社にとって必要不可欠ですが、それだけでは十分ではありません。(2024年初頭の市場予想が米国の景気後退が差し迫っているというものであったように)予測がしばしば間違っているからという理由だけでなく、予測された結果に至るまでの道筋が、実際に予測された結果となるかどうかと同じくらい重要になるためです。
2024年後半、米国の国内政策の行方とそれに伴うインフレ見通しをめぐる不確実性が高まったため、米国債利回りに「ターム・プレミアム」(債券の期間の長さに伴う上乗せ利回り)が再び現れました。これは、過去10年間の債券市場でほぼ消失していたリスクプレミアムです。2025年に入っても、不確実性は依然として高まっています。
例えば、トランプ政権は、以下のような積極的な経済政策を展開しています。
- 貿易に対する保護主義的なアプローチ(インフレ圧力と成長減速につながる可能性)
- 規制緩和(経済成長を促進させる可能性)
- 移民政策の厳格化(賃金上昇圧力となる可能性)
- 減税(企業収益の底上げとなる一方、財政見通しの悪化につながる可能性)
より単純な時代であれば、債券投資家は国債と投資適格社債で構成される伝統的なポートフォリオを維持するだけで十分だったかもしれません。そして、特に株式市場がさらに下落する状況であれば、2025年はその伝統的な戦略が十分な投資成果をもたらす可能性は高かったでしょう。しかし、市場見通しを曇らせる多くの不確実性を考慮すると、債券投資家はボラティリティが高水準で推移することを想定した上で、ポートフォリオの分散がもたらすメリットを検討すべきと考えます。
今こそ、伝統的な債券への資産配分が重要
債券は数十年にわたって、利回りや流動性、元本保全、そして分散効果というメリットを提供し、分散投資ポートフォリオの主要な構成要素となってきました。現在の市場環境がどれほど不確実であっても、債券保有の戦略的価値や構造的価値に変わりはありません。
現在、米国と欧州の国債利回りは、リスクを勘案しても魅力的な水準です。ベンチマークとなる米10年債利回りの水準(執筆時点で4.21%程度)は過去20年の高水準に近く、ドイツ10年債利回りは3%に迫り、15年ぶりの高水準に近づいています。こうした国債に投資するだけでも、よりリスクの高い株式ポートフォリオにもたらす分散効果を享受しつつ、魅力的なインカムを獲得できることが期待できます。
投資適格社債も魅力的なインカムを提供する可能性が高いでしょう。ただし、スプレッド(同期間の国債利回りに対する利回り差)が小さくなっているため、一般的に国債利回りの変動に敏感になることが予想されます。国債利回りの変動が大きい状況が続く場合、投資適格社債のリスク調整後リターンは悪化する要因となりえます。
ハイイールド社債(投資適格未満)および新興国セクターの債券は、高い利回りによってボラティリティに対する緩衝材となりますが、一般的に投資家心理の浮き沈み、そして地政学的リスクに対してより敏感な特性があります。
主要な世界経済に関する市場予想が正しいとすれば、国債と社債で構成された伝統的な債券ポートフォリオは、2025年末までに十分なリターンを達成できることが期待されます。実際に、先進国全体でインフレが鈍化し、地政学的な緊張と貿易政策の不確実性が低下すれば、長期債利回りは大きく低下し、これらの伝統的資産を持たなかった場合には得られないようなトータルリターンを生み出す可能性もあります。
問題は、債券投資家がこうしたリターンを得るために、どの程度のリスクを許容すべきかということです。
分散がボラティリティを低下させ、利回りを高める
グローバル債券市場は巨大かつ様々な資産で構成されており、その拡大を続けています。今日では、伝統的な債券ポートフォリオのボラティリティを低下させ、利回りを高める(あるいはその両方を実現する)資産クラスや投資戦略が数多く存在しています。例えば、物価連動債(TIPS)へのエクスポージャーはインフレ上昇に対する保険となりますし、資産担保証券(ABS)などストラクチャード商品は社債へのエクスポージャーの分散となり、担保付ローン(CLO)など変動金利の資産クラスは金利ボラティリティの影響を軽減するのに役立ちます。
一方で、新興国の国債・社債へのエクスポージャーを含めることで、信用リスクを分散させながら利回りを高めることが可能です。不確実性の高い時期においては、インカムまたはリターンのいずれかを目標とするようなオルタナティブ投資戦略を組み入れることで、分散と利回りの魅力的な組み合わせを提供できる可能性もあるでしょう。
インカム戦略:予測可能なインカムを提供することを目指す戦略で、通常はマネーマーケット・ファンドより1~2%高い水準に設定されます。こうした投資戦略は、一般的にデュレーションのエクスポージャーが中位(または低位)であるため、現金や投資適格社債の有力な代替手段となりえます。
インカム戦略は、専門的な資産クラスに分散されているケースや、特定の資産クラスや地域にフォーカスした運用を行っているケースがありますが、分散された債券ポートフォリオの構築において様々な用途で活用できます。例えば、米国の不確実性を懸念する投資家は、米国債のエクスポージャーの一部を、米国の幅広い債券を対象としたインカム戦略に置き換えつつ、欧州の長期国債へのエクスポージャーは維持するといった調整が考えられます。あるいは、その逆のケースもあるでしょう。
絶対収益型戦略:一般的に、より制約のないアプローチを採用し、世界中の国債や社債、ストラクチャード商品に資産配分を行うことで、債券ベンチマークを上回るトータルリターンを目指す戦略です。
原則としてこうしたアプローチを採用することで、債券ベンチマークや、こうしたベンチマークを基準とするアクティブ投資戦略と比較して、より多くの効率的なリターン獲得の機会を捉えることが期待されます。絶対収益型戦略には、短期目標あるいは長期目標が設定されているケースが多いため、現金や短期金融商品の代替として、あるいは長期の国債・社債の代替として活用することが可能です。
より強固な債券ポートフォリオで予想外の事態に備えを
たいていの年に、サプライズは起こります。株式と債券に分散投資されたポートフォリオであれば、その影響は比較的軽微にとどまることが多いですが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生時のように、十分に分散されたポートフォリオであっても、サプライズが甚大な影響を及ぼすこともあります。
2025年にそれほどの規模のサプライズが起こる可能性は大きくありませんが、市場コンセンサスではないものの実現性の高まっているシナリオがいくつかあります。以下では、それらのいくつかのシナリオを検討し、それが実現した場合にリスク調整後リターンの向上に役立つような分散ポートフォリオを提案してまいります。
シナリオ1:成長が予想以上に減速し、インフレと金利が低下するケース
このシナリオでは、経済成長、インフレ、政策金利の低下によって利回り低下が予想される長期国債への資産配分を維持すると良いでしょう。成長鈍化の原因によっては、ボラティリティが高止まりする可能性も十分に考えられます。したがって、利回りを重視する一方でボラティリティへの耐性が低い投資家には、インカム戦略と絶対収益戦略への分散投資が適していると思われます。
このシナリオにおいては、現金や短期金融商品の利回りが大幅に低下する可能性があり、多くの投資家に影響を与えることが予想されます。パンデミック以降、米ドル建て現金・マネーマーケット商品への投資は約6兆ドルとほぼ倍増しました。不確実性が高まる環境において、現金や短期金融商品の安定性、そして安全性は引き続き魅力的です。しかし、インフレが抑制されたままであれば、(特にユーロ圏において)政策金利は低下にとどまり、利回りを追求する投資家にとって現金の魅力は着実に低下していくでしょう。
以下に示したのは、伝統的な長期債券へのエクスポージャー、および現金・短期金融商品への配分が大きい投資家向けに適したポートフォリオの一例です。自国の国債エクスポージャーの一部を、インフレ連動債とグローバル国債に分散することで、デュレーションを維持しながら金利変動を抑制し、マネーマーケットのエクスポージャーを短期の公社債に分散することで、利回りとリターンの双方を高めることが期待されます。
- グローバル国債とインフレ連動債へのエクスポージャーを通じて、ボラティリティ低下のための分散投資と利回り低下の恩恵を享受
- インカム収益を高めるための社債エクスポージャー
- インカム収益と利回り低下のリターンを追求する短期国債への投資

シナリオ2:インフレが予想以上に加速するケース
債券ポートフォリオにとって最大のリスクは、経済成長が市場予想を上回る場合、貿易における関税が拡大する場合、あるいは外的ショックなどによってインフレが加速することではないかと考えられます。
こうしたシナリオが実現すれば、債券投資家にとっては厳しい一年となる可能性が高いでしょう。しかし、名目で評価される国債エクスポージャーの一部を、インフレ連動債やデュレーションの短い資産クラスに置き換えることで、投資家にとってはインフレの影響が軽減されることが期待できます。
また、絶対収益型戦略へのエクスポージャーを増やすことも、リターン確保につながる可能性があります。新興国市場の現地通貨建て債券やプライベートクレジットといった資産クラスへのエクスポージャーは、米国債利回りの変動に対する感応度が低い特徴があることから、ポートフォリオのボラティリティ低減に寄与するでしょう。
最後に、特に変動利付のストラクチャード商品は、魅力的な利回りを提供する一方で、ポートフォリオ全体のボラティリティを低減するのに役立つ可能性があります。
シナリオ3:地政学的リスクが高まり、市場心理が悪化するケース
地政学的リスクは、さらに高まる可能性があります。トランプ政権は、長年続いてきた国際社会における米国の役割に異議を唱えており、進行中および潜在的な紛争をめぐって不確実性を高めています。
地政学的な安定性への懸念が継続すれば、経済の安定性への懸念も当然高まることになるでしょう。これは、伝統的な国債価格にプラスの影響を与える一方で、社債、新興国債券、プライベートクレジットといった資産クラスにはマイナスの影響を与えることが予想されます。
しかし、ボラティリティはアクティブ投資家にとっての投資機会につながるため、とりわけ絶対収益型戦略にとって適した投資環境と言えるかもしれません。また、一般的に投資適格の信用リスクを有し、金利変動の影響をより受けにくいストラクチャード商品も、安定性とインカム収益の恩恵を受ける可能性があります。
シナリオ4:市場コンセンサス通りだが、ボラティリティが高止まりするケース
このシナリオでは、シナリオ1~3のリスクはいずれもはっきりと顕在化しません。その代わりに、インフレ率の上昇、地政学的リスク、成長の鈍化あるいは急拡大が懸念される状況が続くというケースです。
このシナリオは、2025年に最も可能性の高いシナリオかもしれませんが、伝統的な債券ポートフォリオのリスク調整後リターンは期待外れとなることが予想されます。ポートフォリオ内の分散を高める戦略(絶対収益型、プライベートクレジット、ストラクチャード商品など)を追加することで、ボラティリティを低減できる可能性があります。また、追加のインカム収益の源泉(インカム戦略やプライベートクレジットなど)を追加することで、リターン向上を狙うことができます。いずれの方法もリスク調整後リターンの向上に寄与することが期待されます。
以下に示したのはグローバル債券ポートフォリオの一例ですが、インカムと分散のバランスを取り、より安定した魅力的なトータルリターンを追求しています。このシナリオにおいては、伝統的な債券ポートフォリオのリスク調整後リターンをアウトパフォームする可能性が高いと考えています。
- グローバル国債とインフレ連動債へのエクスポージャーを通じて、金利リスクの分散
- インカム収益を高め、リターンを分散させるハイイールド社債、ストラクチャード商品、新興国債券のエクスポージャー
- 分散効果とトータルリターンを追求する絶対収益型戦略への投資

債券における分散投資のメリット
上述のそれぞれのシナリオにおいて、ポートフォリオの分散とリスク調整後リターンの向上を目指したポートフォリオを提案しました。すべてのポートフォリオの事例に共通しているのは、債券の分散によるリスク低減は、必ずしも期待リターンの大幅な低下を伴うものではないということです。現時点における様々な懸念は、すべて一時的なものにとどまり、2025年は債券投資家にとって単純な1年となるかもしれません。しかし、そうでない場合、投資家はポートフォリオの分散に向けたあらゆる取り組みを評価することが求められます。不確実な1年となることが確実視される中、こうした取り組みを続けた投資家こそが、今後も恩恵を受けられることになるでしょう。
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